「印刷とデザイン」

MORE than WORDS 沖直美
グラフィックデザイナー。
主な仕事は、雑誌、CDジャケット、チラシ、書籍、DM、名刺のグラフィックデザイン。
info@morethanwords.jp

 誰でもそうかもしれないが、最初の打ち合わせを特に大事にしている。そこにはきっとクライアントの率直な希望がたくさんある。言葉や文字や写真になっていない何かを感じとることは大事なことである。私はデザイナーなので、打ち合わせを行ったときにクライアントにどのようなものを作りたいかをまずたずねる。そしてその作品がどうなっていってほしいのかをたずねる。最終的な形はさまざまで、その方法は印刷もあれば、自宅のプリンターでよいこともある。印刷物として多くの人の手に渡るよう、世に送り出したい場合や、ある特定の人たちへ向けてのメッセージ性を強くしてさらに金額も安くしたいという場合など。そのコンセプトや最終目的に向けての考え方を聞くことはデザインの方向性やこれからの広がりにつながっていく大事なプロセスだ。デザインをしようと思えばどれだけでも案がでてくる。でもアプローチがたくさんある中で、どの方向性、どの切り口がよいかを提案するのかがデザイナーの醍醐味ともいえる。私はその各ゴールへ向けて考え始める。

 私がまだ修行中で師匠についていたころ、「最終を考えてデザインをしろ」とよく言われていた。私はそのころ「印刷にいれるには画像の解像度が高くないといけないし、アウトラインもかけられないといけないからだろう」くらいにしか思っていなかったが、デザイナー歴が長くなってくると彼のその一言がどれだけ大きな意味を持っていたかがよくわかってきた。技術的なことは大事だし基本として知っておかなければならないけれど、どうやらそれだけではないようだ。それは「最終によって作り方も考え方も変わってくるし、デザインも変わってくる。やれることの幅が広がる。だからデザインのゴールは絶対印刷でなければならないということはない」ということだといまでは理解している。美しさからいえば、印刷が一番だと思っているのでぜひこれをおすすめしたいけれど、その印刷を設定するにもいろいろある。写真の再現性を求めるか、風合いを求めるか、その両方を求めるか、和を求めるか、洋を求めるか、金属的なニュアンスを求めるか、柔らかな質感を求めるかなどで、用紙の選択が変わってくる。手に持った肌触りも違ってくる。用紙の種類だけでなく、厚さでも質感が変わり、伝わるイメージも左右する。だから単に部数が多いから印刷でというわけにはいかない。「印刷とデザイン」は単純そうにみえて、しっかり考えてあげないといけない間柄なのだ。デザインは視覚の要素が大きいけれど、実際は触感もあるし、見た目で音はならないけど、CDジャケットを見ただけでどんな音楽が奏でられているか聴こえてくるくらい感じることもできるし、直接は臭わないけど、匂いを感じるくらい雰囲気のあるデザインというのもあるし、食べたくなるくらいおいしそうなデザインというのもある。五感を刺激するデザインだと、クライアントのコンセプトを少しでも多くの方に届けることができるのではないか。そしてそれを助けてくれる、一緒になって盛り上げてくれる印刷。インクも特色にするか、カラーにするか、モノクロにするか、カラーだけど特色に見えるような仕上がりに刷るか、用紙によっても発色がよかったり、沈んだり、美しいラインで仕上がったり、鈍いラインをあえて選んだり、考えることは多数である。そして、もうひとつ。安いからという理由で選ばれてしまうインクジェットプリンターだが、こちらも安さだけではないメリットもある。最近のインクジェットはきれいになって、印刷では多額の費用がかかりそうなものまでインクの色も備えている。インクジェットだといつでもやり直しが可能だし、納期も気にせず自分のところで何度でも出せる。その気軽さで、同じデザインで色を変えたり、またはデザインを何種類か作ったり、紙を変えたりして、数種類のものを作ったりしても予算内におさまったりするので、遊んだ提案をすることができる。デザインを考えるにあたって「遊べる」ことは大事なことだ。

 私が今回「花型装飾」にお世話になることになったのは五感でいう「聴覚」を感じたからだった。パイプオルガンのオルガニストの方のCDを作ることになり、ご本人にお会いした。ふんわりと何かに包まれているようなきれいな方だった。なんだろう、雰囲気といってしまえば一言だけど、オーラが柔らかくてでも筋は一本ぴりっと通っているような印象を受けた。そして演奏曲を拝聴したわけだが、美しい。。と思った。美しく凛としていて、でも柔らかさがある。彼女の見た目と演奏がぴったりで、ああ、この美しさをデザインで出せたらと思ったのである。前から「花型装飾」のことは知っていて、雑誌の特集になってもいるその本も持っていたので、それを見ながら「ああ、この装飾をCDジャケットに使えたらどんなに美しいものになるだろう」と探し始めた。素材として売られているのかと思っていたけど、売られていなくてがっかりしつつ、それでもしつこく探していたらfengfeeldesignさんを見つけたのだった。この花型装飾のように、繊細で柔らかで美しく凛としていて周りを包み込みながら伸びていくような、ぴったりの演奏が入っているCDジャケットにしたいと思い、使用させて頂いた。ジャケットはプラスチックではなく、厚めの紙ジャケット。立派な厚手の紙ジャケットは特別感を感じさせてくれる。美しいオルガンの画像もきれいに再現されるよう用紙を選択した。グロス加工をして、発色も強度もバッチリ、触った感じもつるっとしていて気持ちがよい。表紙には、オルガンの写真に花型装飾が伸び、CDに録音された美しく伸びゆく音たちが見えるようなイメージでデザインをした。色はオルガニストの方の私のイメージ。凛とした美しさが映える、そしてオルガンの色にも美しく映えるブルーに、落ち着いた黄色の装飾だ。印刷に入れるときには、出力見本をつけるのだが、それに近く出してもらえるよう、印刷会社にお願いをした。印刷は見本次第で色の再現が異なってくるから、慎重にしなければならない。デザイナーのイメージとおりに、印刷を仕上げてもらうには細心の注意が必要である。花型装飾は表紙だけでなく、香りが漂うような何かを感じて頂ければと中面にも使用した。臭覚を刺激することになるだろうか。CDを聴こうとCDを外したトレイ面に花型装飾をあしらった。CDをはずしても、花型装飾があると美しい、嬉しい。見て聴いて大きく息を吸い深呼吸したくなるような清々しい作品はきっと多くの人を癒してくれることだろう。人間が「きれいだなあ」と思うとき、頭の中は活性化され、癒され、元気になるのではないかと思う。そして花型装飾はそれを見事に成し遂げていると思う。このCDジャケットの話がでたとき、もちろんインクジェット印刷ということもできたし、普通のCDにすることもできたが、やはりそこはコンセプトありき。大事な重厚なタイトルとともにいつまでも永久に大事にしていただけるよう特別感のある紙ジャケットになったのだった。

 「印刷とデザイン」はお互いに切磋琢磨する関係がよく似合う。もっともっと!を再現できるゴールデンコンビだと思う。印刷はデザインをいかすことを考えながら、デザインは印刷でいかに表現されるかを考えながら、作品を世に送り出すことができれば、どんなに幸せなことだろう。きっといつまでも大切にしてもらえる作品となるだろう。

 この度、花型装飾に出会えたことはこれからの私のデザイン生活に潤いを与えてくれると思う。花型装飾を用いたデザインをするという意味でも広がりがあるし、なんといっても見ているだけできれいだなあと思えるのだから、私の頭の中は深呼吸をしているのだ。この場を借りて、お礼を申し上げます。fengfeeldesignさんありがとうございました。









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